Sound Notes #01:碧の秘密 B-side

Sound Notes
Sound Notesは、
音旅のなかで生まれた音や即興、
その背後にある気配や感覚を、
言葉とともに記録するノートです。
碧の秘密B-side

深く息を吸い、
意識が内側へと沈んでいく。
同年春に生まれた『碧の秘密』から派生し、
そのさらに奥へと潜っていくように生まれた、
もうひとつの音の記録。
『碧の秘密B-side』が生まれるまで
本作は、すでにデジタルリリースされている
アルバム『碧の秘密』と同じ年に生まれた、
もうひとつの痕跡である。
『碧の秘密』は、2024年春、
鳥海山—田沢湖—鹿角を結ぶ音旅のなかで
生まれた音源を厳選し、
ひとつの作品として結晶化したアルバムだった。


その後、鹿角に暮らす映像作家ヘザー・ブラウンとの
「碧」をテーマにした創作がはじまり、
長野でのピアノ×映像のコラボレーションをきっかけに、
意識は次第に、
作品そのものが内包していた世界へと向かっていく。
それは、土地そのものの声であり、
『碧の秘密』から彷彿とした
地球の内部—マントルへ潜っていくような探究だった。
その感覚とともに結ばれていったのが、
2024年後半の
長野—神奈川—青森(弘前)を巡る音旅である。
本デジタル配信では、
CD作品に収録されていた映像との即興曲をあえて含めず、
ソロピアノ6曲のみを選び取った。
静かに、じっくりと土地に耳を澄まし、
記憶の深層に触れるように奏でられた音。


聴く人からは、
「深い記憶の旅をしているようだ」
「意識がゆっくりと内側へ向かっていく」
そんな感想も寄せられている。
派手さはない。
だが確かに、B面らしいエッセンスがある。
『碧の秘密』という作品の裏側で、
静かに続いていた探究の記録
『碧の秘密B-side』へ。

Track Stories
—notes from each track

1. 聖 : はじまり
Hijiri : Beginning
長野県麻績村でのコンサート、
その“はじまり”に奏でられた曲。
聖湖、聖山、小さな滝や川。
聖山を巡りながら過ごした時間のなかには、
この土地に残る戦争の記憶も、静かな影として重なっていた。
末っ子の息子と立ち寄った聖湖近くの公園で、
思いがけず目にした戦闘機。
その体験もまた、言葉になる前に音として沈み込み、
水気を含んだピアノの響きとなって現れている。
夏の聖湖の気配から生まれた、
このアルバムの扉をひらく「はじまりの曲」。

2. 藤野の家 : はじまり
Fujino no Ie : Beginning
高尾山の麓、藤野でのコンサート。その始まりに奏でられた曲。
この場所へ向かう道のりは、個人的にも、幼少期に手を合わせていた
氏神様への挨拶を含んでいた。高尾山も、氏神様も、天狗と深く結びついている。
そのことにふと気づいたとき、
幼い頃、純粋だった時代の奥深くに置き去りにしてきた“何か”に、
そっと触れた感覚があった。どんな痛みを含んでいたとしても、
すべてがきらきらと輝いていた、あの一瞬の魔法。
その感覚が、自然と旋律となって立ち上がってきた。
母へ、父へ。
幼少の頃には伝えられなかった眼差しを、
いま、ようやく心の中心に置いて、奏でている。

3. OTOHOKi東日流 : はじまり
OTOHOKi Tsugaru: Beginning
岩木山の麓、夕陽に染まりはじめる山を窓越しに望むライブ会場。
この場所へ向かう前、岩木山麓の畑で開かれていた集まりに立ち寄った。
軽トラックの上に横たわる、アオバトの亡骸。
その羽は、息をのむほど美しい碧を宿していた。
会場は、いく人ものアーティストが描いた碧の世界で満たされ、
この日に向けて主催者が丁寧に準備を重ねてきた空間だった。
その碧に包まれた場で、私はこの「はじまりの曲」を奏でた。
ここは、地球の内部であり、母の胎内のようでもある。
深い海の底に身を委ねるような、
とても静かで、どこか懐かしい感覚。
その気配をそのまま音にしたのが、この曲である。

4. 岩木山
Mt. Iwaki
夕陽に染まる岩木山を見つめながら、
会場のなかで音に浸る参加者一人ひとりの姿が、
この上なく美しく感じられた瞬間があった。
そのとき、ふいに
「岩木山を弾きたい」という衝動が湧き上がり、
即興で生まれたのが、この曲である。
この音は、その後も旅を続け、
2025年冬、山の神の日に岩木山麓で再びピアノを弾くなかで、あらためて曲として結ばれていくことになる。
この作品は、その旅の象徴ともいえる存在となった。
山の気配。
山と山が地続きで響き合っているバイブレーション。
その理解が深まるにつれ、
この即興に宿る呼吸や空気感に、胸が熱くなる。
人が自然を見つめ、そこに神を見出してきたこと。
その営みの尊さを、
もう一度、胸に抱いて生きていきたい。

5. いのちの宝物(藤野の家 ver.)
Treasure of Life(Fujino no Ie ver.)
両親が買い与えてくれたアップライトピアノ。
そのピアノを、山の上の古民家へ迎え入れ、
オリジナルソロアルバムを制作したのが2018年だった。
その制作のなかで、
両親の存在を強く感じながら生まれた曲が
「いのちの宝物」である。
この曲を、実家からほど近い神奈川の地でのコンサートで奏でた。
この土地で、この曲を弾くこと。
感謝を伝えること。
人が成長していくということについて、
深く感じ入る時間が、静かに流れていった。
さまざまな時期を経て、いま、ここにいる自分。
そして集まってくれた友人たち。
ともに、この音のなかで「いのちの宝物」を感じていた。形には残らないもの。
それでも、永遠に生き続けていくもの。
その気配を、そっと確かめるように奏でた一曲。
Treasure of Life
The upright piano my parents gave me.
In 2018, I welcomed that piano into an old house on a mountain
and recorded my first original solo album.
During that time, while deeply sensing the presence of my parents,
the piece “Treasure of Life” was born.
I later performed this piece at a concert in Kanagawa,
a place close to my family home.
To play this music on this land,
to offer gratitude through sound,
and to reflect on what it means for a person to grow—
a quiet and profound time unfolded there.
After passing through many seasons of life,
I found myself standing there, now.
Friends gathered, and together, within this music,
we shared a sense of what a treasure of life truly is.
Things that leave no physical trace,
and yet continue to live on eternally.
This piece was played as a gentle confirmation
of that invisible, enduring presence.

6. HOMETOWN (OTOHOKi ver)
幼い子どもたちを連れての帰省。
コロナ禍がゆるみはじめた頃のこと。
昔の子ども部屋で、
リビングから聞こえてくる子どもたちのはしゃぐ声を背に、
ほんのわずかな、ひとりの時間が訪れた。
その静けさのなかで、
この曲のメロディーは、ふっとやってきた。
都会のざわめき、電車の音。
わたしの身体に染み込んでいる、子ども時代の原風景。
いま、山で暮らし、いのちの感覚を取り戻したわたしに、
それらは静かに語りかけてくる。
この音は、
大切に携えながら、ここまで旅してきたもの。
そして、いつでも帰ることのできる「ふるさと」のような音。弘前のコンサートでは最後に選んだ曲だったが、
この時とくに、”ふるさと”の感覚が、不思議と染み渡って涙になった。
音旅を続ける理由が、
ここに、そっと息づいている。
HOMETOWN (OTOHOKi ver.)
Returning home with my young children,
as the world slowly emerged from the pandemic.
In my childhood room,
while their joyful voices echoed from the living room,
a brief moment of solitude arrived —
and with it, a melody.
Sounds of the city, of passing trains,
and landscapes etched deep within memory.
Now, living in the mountains and having regained my sense of life,
those memories quietly speak to me.
This music is something I carry with care,
a sound that always allows me to return home.
It is the reason I continue this journey of sound.
碧の秘密B-side作品

『碧の秘密』という作品の裏側で、
静かに続いていた探究の記録。
それが、このB-sideである。
作品については、こちらにまとめています。
▶︎ Works
